こんにちは。富永です。
朝晩の風にほんのりと秋の気配を感じる季節になりましたね。
新年度から走り抜けてきた夏休みの慌ただしさも少し落ち着き、秋からの働き方をどうしようかと、シフト表やカレンダーを眺めている方も多いのではないでしょうか。
「そろそろ106万円を超えそうだから、年末に向けてシフトを減らさなきゃ」 「本当はもっと働きたいけれど、扶養から外れると損をする気がして……」
これまで、そんな風に悩んでご自身の働く時間にブレーキをかけてきた方も少なくないと思います。
特にパートやアルバイトで働いている方にとって、勤務時間を考えるうえで気になるのが「年収の壁」です。
「扶養の範囲内で働くには、あとどのくらい働ける?」
「年収が106万円を超えないように、シフトを調整したほうがいい?」
「扶養を外れると手取りが減ると聞くけれど、実際はどうなの?」
そんな疑問を持ちながら、働く時間や収入を調整してきた方もいらっしゃると思います。
実は、その「年収の壁」の一つとして知られる「106万円の壁」が、2026年10月から変わります。具体的には、社会保険の加入要件の一つである「月額8.8万円以上」という賃金要件が撤廃されました。
「収入はどう変化するの?」という不安や疑問い対して、今回は、制度が変わる理由や目先の手取りへの影響だけでなく、この制度変更をチャンスに変えて「これからの働き方」と「将来の資産形成」をどう設計していくかというFPならではの視点でお話ししていきたいと思います。
そもそも「106万円の壁」とは?
「106万円の壁」という言葉は知っていても、「106万円を1円でも超えたら、すぐに社会保険に加入するの?」と思っている方もいるかもしれません。
しかし、実際には年収だけで決まるわけではありません。
そもそも「106万円」は年収そのもので判定する基準ではありません。実際には、所定内賃金が月額8.8万円以上かどうかで判断されます。
現在、従業員数51人以上の企業などで働くパート・アルバイトなどの短時間労働者は、週の所定労働時間が20時間以上、所定内賃金が月額8.8万円以上、学生ではないことなど、一定の要件を満たすと社会保険の加入対象となります。
また、フルタイムの従業員と同様に、2カ月を超えて雇用される見込みがあることも必要です。
この「月額8.8万円」を年額に換算すると約105.6万円となるため、一般的に「106万円の壁」と呼ばれています。
ここで注意したいのが、よく耳にする「130万円の壁」とは仕組みが異なることです。
106万円の壁は、一定の条件を満たした短時間労働者が勤務先の厚生年金保険や健康保険に加入する際の基準に関するものです。一方、130万円の壁は、配偶者などの社会保険上の扶養に入れるかどうかに関係します。(※なお、130万円の壁についても2026年4月から被扶養者認定の取扱いが一部変更されています。)
そのため、今回「106万円の壁」が変わるからといって、すべての「年収の壁」が一度になくなるわけではありません。
まずはこの違いを押さえておきましょう。
※この記事でいう「扶養」は、特に断りがない限り、健康保険などの社会保険上の扶養を指します。
2026年10月、「106万円の壁」はどう変わる?
今回の変更でポイントとなるのが、「月額8.8万円以上」という賃金要件の撤廃です。
厚生労働省は、2026年10月にこの賃金要件を撤廃する予定としています。全国の最低賃金が時給1,016円以上となったことで、最低賃金以上で週20時間働けば、実質的に月額8.8万円以上という要件も満たすことになるためです。
つまり、これまでのように「年収106万円を超えるかどうか」を意識するのではなく、社会保険の適用を考えるうえでは、2026年10月以降、対象となる企業で働く短時間労働者については、「年収106万円を超えるか」ではなく、「週の所定労働時間が20時間以上か」がより重要になります。
ただし、2026年10月からすべてのパート・アルバイトが一斉に社会保険の加入対象になるわけではありません。
勤務先の規模や働き方によって、社会保険の加入対象になるタイミングは異なります。「106万円の壁がなくなるらしい」という情報だけで判断するのではなく、自分の場合はどうなるのか、勤務先などに確認しておくことが大切です。
社会保険に加入すると「手取りが減る」だけ?
これまで扶養内で働いてきた方にとって、社会保険への加入で最も気になるのは「手取り」ではないでしょうか。
社会保険に加入すると、健康保険料や厚生年金保険料を負担することになります。
そのため、同じ給与額で比較すれば、これまで扶養に入っていた方は手取り額が減る場合があります。
この目の前の変化だけを見ると、「社会保険に入ると損」「それなら働く時間を減らしたほうがいい」と感じてしまうかもしれません。
しかし、社会保険への加入によって変わるのは、現在の手取りだけではありません。
厚生年金保険に加入すると、基礎年金に加えて、加入期間や報酬に応じた厚生年金を受け取れるようになります。
長く加入するほど、原則として将来受け取る老齢厚生年金も増えていく仕組みです。
また、勤務先の健康保険に加入することで保障が充実する面もあります。
たとえば、業務外の病気やけがで働けず、給与を受け取れない場合には、一定の要件を満たすことで「傷病手当金」の対象となります。出産のために仕事を休み、その間に給与が支払われない場合には「出産手当金」を受け取れる場合もあります。
つまり、社会保険料は単純に「給料から引かれるお金」とだけ捉えるものではありません。
「今月の手取りはいくらになるか」という短期的な視点と、「どのような保障を得られるのか」「将来どのくらいの年金につながるのか」という長期的な視点。
その両方から考えることが重要です。
「扶養内に収める」から「どのくらい働きたいか」へ
これまで「年収の壁」を基準に働き方を決めてきた方もいるでしょう。
年末が近づくと「106万円を超えそうだからシフトを減らそう」と勤務時間を調整した経験がある方もいるかもしれません。
もちろん、扶養の範囲内で働くこと自体が悪いわけではありません。子育てや介護、自分の時間とのバランスなど、働き方を決める理由は人それぞれです。
一方で、「壁を超えたくないから」という理由だけで働き方を決めているのであれば、今回の制度変更を機に、一度立ち止まって考えてみてもよいでしょう。
「本当はどのくらい働きたいのか」
「これから収入を増やしたいのか」
「何歳くらいまで働きたいのか」
「老後はどのような暮らしをしたいのか」
こうした視点から考えてみると、自分に合った働き方が見えてくるかもしれません。
特に40代、50代は、老後が少しずつ現実的になってくる時期です。
たとえば50歳なら、65歳まであと15年あります。
1カ月単位で「手取りがいくら減るか」だけを見るのではなく、これから10年、15年と働いた場合に、どのくらい収入を得られるのか。さらに、その間にどのくらい将来のためのお金を準備できるのか。
長い時間軸で考えることで、「扶養内か、扶養外か」だけではない選択肢が見えてきます。
働き方の見直しを、資産形成のきっかけに
働く時間を増やして収入が増えれば、家計に入ってくるお金も増える可能性があります。
ここで考えたいのが、増えた収入をどう使うかです。
収入が増えた分だけ生活費も増えてしまえば、なかなか資産は積み上がりません。
一方で、収入が増えたタイミングで家計を見直し、その一部を将来のために残す仕組みをつくれば、資産形成を進めるきっかけになります。
もちろん、増えた収入をすべて投資に回す必要はありません。
まず確認したいのは、毎月の収入と支出です。
そのうえで、急な病気や失業、まとまった出費などに備えるための生活防衛資金を確保します。
さらに、数年以内に使う予定の教育費や住宅購入費などがあれば、投資するお金とは分けて準備しておくことが大切です。
そして、当面使う予定のない余裕資金があれば、NISAなどを活用した長期的な資産形成を検討する方法もあります。
特に意識したいのが、資産をつくるという考え方です。
夫婦のどちらかが主に働き、もう一方が扶養内で働いてきた家庭では、世帯全体の預貯金や配偶者の退職金、年金を中心に老後を考えているケースもあるでしょう。
しかし、人生100年時代といわれる今、自分自身が働いて得た収入の一部を、自分の将来のために積み立てていくことも大切な選択肢です。
働くことは、毎月の生活費を得るためだけのものではありません。
「どのくらい働くか」は、「これからどのくらいのお金をつくれるか」にもつながっています。
だからこそ、働き方を考えることと資産形成を考えることは、別々ではなくセットで考えていきたいテーマなのです。
働き方と資産形成を考えるときの3つのポイント
では、今回の制度変更をきっかけに、具体的に何を確認すればよいのでしょうか。
まず一つ目は、自分が社会保険の加入対象になるのかです。
週の所定労働時間や勤務先の企業規模などによって状況は異なります。
インターネット上の106万円の壁がなくなるという情報だけで判断せず、自分の雇用契約や勤務先の状況を確認しましょう。
二つ目は、働き方を変えたら家計がどう変わるかです。
給与の額面だけを見るのではなく、社会保険料や税金などを踏まえた手取りを確認します。そのうえで、毎月どのくらい家計に余裕が生まれるのかを考えてみましょう。
そして三つ目は、これから何年働き、どのくらい将来のために準備したいのかです。
老後の生活を支えるものは一つではありません。
働いて得る収入、公的年金、預貯金、そしてNISAなどを活用して準備する運用資産。それぞれを組み合わせながら、自分たちの暮らしに合った将来設計を考えていくことが大切です。
「扶養内で働くほうがお得」「社会保険に入ったほうがお得」と、すべての人に共通する答えがあるわけではありません。
年齢や家族構成、配偶者の収入、現在の資産、今後希望する働き方、そして老後に送りたい暮らしによって、選択肢は変わります。
だからこそ、「壁を超えるかどうか」だけではなく、自分の人生全体から考えてみることが大切なのです。
「いくらまで働く?」から「どう働き、どう備える?」へ
2026年10月に予定されている「106万円の壁」に関する賃金要件の撤廃は、これまで扶養内で働いてきた方にとって、今後の働き方を考え直す一つのきっかけになります。
社会保険に加入すれば、保険料負担によって現在の手取りが減る場合があります。
一方で、厚生年金への加入によって将来の年金につながり、健康保険の保障が充実する面もあります。
そして、働き方を変えて収入を増やすのであれば、そのお金を将来の資産形成につなげるという視点も持っておきたいところです。
大切なのは、「106万円を超えたら損なのか」という一つの数字だけで判断しないこと。
「いくらまでなら働ける?」ではなく、「これからどのくらい働き、その収入をどう将来につなげていく?」
制度が変わる今だからこそ、現在の手取りだけではなく、これからの働き方、年金、資産形成まで含めて、家計の将来設計を一度見直してみてはいかがでしょうか。


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